今日の名言
「自由思想の内容は、その時、その時で全く違うものだ
と言っていいだろう。真理を追及して闘った天才たちは、
ことごとく自由思想家だと言える。わしなんかは、自由
思想の本家本元は、キリストだとさえ考えている。思い
煩うな、空飛ぶ鳥を見よ、播かず、刈らず、蔵に収めず、
なんてのは素晴らしい自由思想じゃないか。わしは西洋
の思想は、すべてキリストの精神を基底にして、或いは
それを敷衍し、或いはそれを卑近にし、或いはそれを懐
疑し、人さまざまの諸説があっても結局、聖書一巻にむ
すびついていると思う。科学でさえ、それと無関係では
ないのだ。科学の基礎をなすものは、物理界に於いても、
化学界に於いても、すべて仮説だ。肉眼で見とどける事
の出来ない仮説から出発している。この仮説を信仰する
ところから、すべての科学が発生するのだ。日本人は、
西洋の哲学、科学を研究するよりさきに、まず聖書一巻
の研究をしなければならぬ筈だったのだ。わしは別に、
クリスチャンではないが、しかし日本が聖書の研究もせ
ずに、ただやたらに西洋文明の表面だけを勉強したとこ
ろに、日本の大敗北の真因があったと思う。自由思想で
も何でも、キリストの精神を知らなくては、半分も理解
できない。」(「パンドラの匣」新潮文庫より)
聖書に影響を受けている太宰治らしい名言だと思います。
日本という国は、いろいろ学問において、宗教的観点を
無視して研究するきらいがあるようですね。
明治維新以降、どんどん西洋文明が入ってきていますが、
この名言にあるとおり、表面的に取り入れているだけで、
キリスト教、聖書と関連づけての研究は、されていない
のでしょう。
ここにこそ、日本の大敗北をきっした真因があるという
のは、やはり、当時の政治家や指導者に対する痛烈な批判
が込められているのだと思います。
パンドラの匣改版 [ 太宰治 ]