今日の名言
「 法律も制度も風俗も、昔から、ちっとは気のきいた思想家に、
いつでも攻撃され、軽蔑されて来たものだ。事実また、それを
揶揄し皮肉るのは、いい気持のものさ。けれども、その皮肉は、
どんなに安易な、危険な遊戯であるか知らなければならぬ。
なんの責任も無いんだからね。法律、制度、風俗、それがどんな
に、くだらなく見えても、それが無いところには、知識も自由も
考えられない。大船に乗っていながら、大船の悪口を言っている
ようなものさ。海に飛び込んだら、死ぬばかりだ。知識も、自由
思想も、断じて自然の産物じゃない。自然は自由でもなく自然は
知識の味方をするものでもないと言うんだ。知識は、自然と戦っ
て自然を克服し、人為を建設する力だ。謂わば、人工の秩序への
努力だ。」(「乞食学生」より「太宰治全集3」ちくま文庫収録)
確かに、法律も制度も風俗も完璧なものはありえません。だから、
当然批判の対象になります。しかし太宰治のいうとおり、これら
のないところに知識も自由も考えられないのです。
なぜなら、法律や制度がなければ、秩序は混沌とし、原始時代と
変らない状況であり、そこは理性も何もない、動物に等しい人間
の群れに等しいからです。
法律や制度があるからこそ、人間はそれをより良くしようと知識
を得ようとするし、その枠組みの中で自由を求めるのではないで
しょうか。
だからこそ、法律や制度や風俗を揶揄し皮肉るのは、大船に乗っ
ていながら大船の悪口を言っているようなものなんです。
また知識を得ることは、人為の建設する力、人口秩序への努力
というのも、頷けますね。知識が人間の社会をよりよくする
原動力になるんですね。
太宰治全集 3