今日の名言
「おれは、この女を愛している。どうしていいか、わからないほど
愛している。そいつが、おれの苦悩のはじまりなんだ。けれども、
もう、いい。おれは、愛しながら遠ざかり得る、何かしら強さを
得た。生きて行くためには、愛をさえ犠牲にしなければならぬ。
なんだ、あたりまえのことじゃないか。世間の人は、みんなそうして
生きている。あたりまえに生きるのだ。生きてゆくには、それより
ほかに仕方がない。おれは、天才でない。気ちがいじゃない。」
(「姥捨」より「太宰治全集2」ちくま文庫収録)
どうしていいかわからないほど人を愛するからこそ、生じる苦悩。
生きていくだけでも精一杯なのに、人を愛することで、様々な見栄、
虚栄心、プライドなど感情も生まれますから、いい格好もしたい、
でもそんな余裕もないといったジレンマも生まれます。
しかもその女性が、自分を裏切っていたことを知っても、まだ
その女性を愛している。そして女性をそういう行為に走らせた
責任は自分にあると感じる。もうそれこそどうしていいかわから
なくなります。
そして行き着く先、2人で一緒に死ぬことしかなくなるわけ
です。でも死にきれなく生き残ってしまうのです。そういう
経験をしたからこそ、愛しながら遠ざかり得る、何かしら
強さを得たと言えるのでしょうか。
生きていくには、あたりまえに生きる、それよりほかに仕方
ないのでしょう。自分自身の様々なしがらみ、自分自身を
よく見せようとする気持ち、そんなものは全部捨てて、ただ
単純に生きるしかないのでしょう。