今日の名言
「人間なんて、どんないい事を言ったってだめだ。生活のしっぽが、
ぶらさがっていますよ。「物質的な鎖と束縛とを甘受せよ。我は今、
精神的な束縛からのみ汝を解き放つのである。」これだ、これだ。
みじめな生活のしっぽを、ひきずりながら、それでも救いはある筈だ。
理想に邁進する事が出来る筈だ。いつも明日のパンのことを心配し
ながらキリストについて歩いていた弟子達だって、ついには聖者に
なれたのだ。僕の努力も、これから全然、新規蒔直しだ。」
(「正義と微笑」より「パンドラの匣」新潮文庫収録)
人間生きていくためには、食べていかないといけません。食べて
いかないと、生活できません。
だから、どれだけ高尚なことを言ったところで、それも生活を離
れた、食べていくことと無関係なところの話ではないんです。
若い時は、親の庇護のもとにありますから、よっぽどのことがない
限りは、生活の苦労もすることはありません。だから、生活を離れ
た理想や高尚なことを考えたり、言ってみたりするものなのでしょう。
でも、生活のしっぽがぶら下がっていても、上の名言にあるとおり
理想に向かって邁進して、努力を続けることはできるんです。生活
と結びついていることと、理想とは相反するものではないんです。
食べていくことを考えることは、決していやらしい卑俗なことでは
ないんです。その中で、理想に向けて努力を続けることは、尊いこ
とだと思います。
パンドラの匣改版 [ 太宰治 ]