今日の名言
「生活に於いては、いつも、愛という事を考えていますが、
これは私に限らず、誰でも考えている事でしょう。ところが、
これは、むずかしいものです。愛などと言うと、甘ったるい
もののようにお考えかも知れませんが、むずかしいものです
よ。愛するという事は、どんな事だか、私にはまだ、わから
ない。めったに使えない言葉のような気がする。自分では、
たいへん愛情の深い人のような気がしていても、まるで、
その逆だったという場合もあるのですからね。とにかく、
むずかしい。」
(「一問一答」より「太宰治全集10」ちくま文庫収録)
愛するということは、どういうことか、これは確かに難しい
問題ですね。人間にとって必要なことであり、これが無ければ、
人間としては失格のような気がします。
では具体的に愛するということは、どういうことかと言われると
困ってしまします。愛情を注ぐとはどういうことか、太宰治で
すら分からないと言っていることを軽々しくは語れません。
キリスト教や聖書に少なからず影響を受けている太宰治らしい
表現だと感じます。ブルジョアに生れた自分の出自を嫌い、
常に純真さや、潔癖さを求め憧れている太宰治ならではの表現
なのでしょう。
太宰治と不仲であったと噂のある中原中也は、「春日狂想」で、
「愛するものが死んだ時には、自殺しなきゃあなりません。
愛するものが死んだ時には、それより他に、方法がない。けれども
それでも、業(?)が深くて、なほもながらふことともなつたら、
奉仕の気持に、なることなんです。」と表現していますが、愛と
は「奉仕」ということなのでしょうか。
ただ息子さんを亡くされた中原中也の気持ちを思うと、「春日狂想」
の内容は痛々しすぎて胸が張り裂けそうになります。
太宰治全集 10